工夫でコストをコントロール
黒田:値上げ戦略がうまくいくというケースもある。ある食品通販事業者は、原材料や製品の値上げが続くことを予想して、かなり早い段階の2020年の冬ぐらいに、製品価格を一気に400~500円ぐらい値上げしていた。
その後、2021年になってから、「値下げした」というリリースを出していた。各社が値上げする中で、「値下げ」を打ち出したことが、新規顧客の獲得につながったようだ。そうした先を見越したPR戦略も有効だと感じた。
星野:上昇するコストをどうマネージメントしていくかが重要になる。健康食品・化粧品業界でいえば、原料価格や資材価格が上がるのに併せて、広告費も上がっている。
2022年は、ウェブ広告全体の顧客1件当たりの平均獲得単価が、2021年比で10%増加したという声もある。今後は、獲得効率が良い広告媒体へ、広告費が流れていくとみている。
今注目されているのはTikTok(ティックトック)やPangle(パングル)などの短尺動画プラットフォームの広告枠だ。
今までEC専業だった企業が、インフォマーシャルや新聞広告に参入するケースも増えている。広告の出稿媒体は、多角化しており、さらに効率が求められるようになっていくだろう。
手塚:コストマネージメントでいうと、システムの採用に変化が起きている。カスタマイズが必要なシステムのベンダーでは、導入企業の検討期間が伸びていたり、受注しにくくなっていたりするという声も聞いている。
星野:人件費の抑制に取り組むケースも多い。
これまで人力でやっていたことを、システムで自動化するのは一般的になっている。ECに関する人材を雇用するのではなく、クラウドソーシングを使って、スポットで一つの作業としてやってもらうケースも増えている。
ECのプロの人材を集めて、EC関連の仕事を受託するサービスを提供する事業者も増えている。
黒田:コスト抑制の手段としては、仕入れ先の変更もある。
カニを例にとると、これまでズワイガニを扱っていたところが、アルゼンチン産や南アメリカ産の別の品種のカニを仕入れるケースも取材した。予想していたほどの売れ行きにはならなかったようだが、代替施策の一つにはなっているようだ。
秋葉:コストコントロールという点では、梱包自体も当然値段が上がっていく。それを受けて、環境負荷の軽減の考えも相まって、簡易的な梱包が主流になってきている。
環境負荷軽減という意味では、プラスチックストローを廃止して紙ストローを採用するケースも増えている。
商品を買うときに、「このサイトは環境に配慮した取り組みをしているか」「パッケージが環境負荷の軽減に貢献しているか」といった基準で選ぶ消費者も多くなっているだろう。
<記者が考える2023年のキーワード>▲星野耕介 記者 「SNSマネージメント」
ユーザーのウェブ上の行動は、SNSが中心になってきている。SNS展開を前提とした商品開発やマーケが必須になる。