2024.03.27

【「EC-CUBE」反撃ののろし】岩田社長と恩蔵CMOに「体制」「ソリューション」の進化を聞いた

イーシーキューブの執行役員CMO マーケティング本部 本部長 兼 営業本部CCO 恩蔵優氏(左)、代表取締役社長 岩田進氏(右)


EC構築オープンソース「EC-CUBE」を提供するイーシーキューブは昨年9月、創業者で親会社イルグルムの代表を務める岩田進氏が、代表取締役会長から代表取締役社長に復帰した。さらに、今年1月には子会社のEC-CUBE Innovationsを吸収合併し、EC構築からシステム運用までシームレスな垂直統合サービスの提供に向けた体制強化を図っている。一時はセキュリティー面の不安がささやかれた「EC-CUBE」だが、岩田社長はその不安を払しょくするとともに、ニーズが拡大する大規模ECサイト構築の市場において、さらに存在感を発揮できると意気込んでいる。岩田社長と、昨年4月にイルグルムにジョインし、イーシーキューブでは執行役員CMO マーケティング本部 本部長 兼 営業本部CCOを務める恩蔵優氏に、「EC-CUBE」を取り巻く環境の変化や提供できるソリューションの進化について詳しく聞いた。



エンタープライズのニーズが拡大


――「EC-CUBE」の変遷は?

岩田:2014年にイルグルムが株式上場をした直後(当時の社名はロックオン)は、中核サービスである広告効果測定プラットフォーム「AD EBiS(アドエビス)」に加え、「EC-CUBE」の提供、そして受託開発が事業の3本柱だった。ただ、3つの事業に手が回らなくなり、受託開発は撤退し、「EC-CUBE」は子会社化して運営していく形にした。イルグルムとしては「AD EBiS」を中心にマーケティング関連のプロダクトに集中する体制にしていた。

そこから2020年ごろには、コロナ禍の需要拡大の追い風はあったものの、「EC-CUBE」はSaaS系ベンダーに押されている状況になっていた。周囲からも「以前は『EC-CUBE』を使っていました」と言われることが増え、「オワコン」のようなメッセージを受けることもあった。

ただ、よくよく見ると、継続的にご利用いただいている事業者があり、新規のユーザーもコンスタントに獲得できてはいた。そういった中でしっかり分析をしていった結果、新たに見えてきたものがあった。

――「EC-CUBE」のニーズはどう変化している?

岩田:従来の「EC-CUBE」は、ピラミッドでいうとミドル以下の事業者に利用されることが多かったが、その領域をSaaS系ベンダーに奪われているという状況になっていた。「わざわざ開発して保守して、セキュリティーの対策までしなくても、SaaSに任せればいいんじゃないか」という事業者が増えたのだと思う。10年前のSaaSは「使い勝手が悪い」「インターフェースが画一的すぎる」という話もあったが、最近は柔軟性を兼ね備えたSaaSが増えてきた。

一方でミドルより上の層は、簡易的なECサイトというよりも、本格的に事業としてECに取り組んでいきたいというニーズが高まっている。UI/UXや実店舗との連携、サプライチェーンの設計も含めて、カスタマイズしてECの仕組みを構築していきたいというエンタープライズの市場が急拡大していることが見えてきた。

本格的なECを構築するためにどうすればいいのか。ゼロから構築するのは時間もコストも大変だ。そこでオープンソースの「EC-CUBE」をベースにして、企業独自の部分を徹底的に作りこんでいくアプローチの注目度が改めて高まっており、そこに関する問い合わせも増えていた。

このエンタープライズのニーズに応えるソリューションは多くない。当社もしっかりとそのニーズに応えるため、体制を強化している。


体制を拡充で大規模向けを強化


――エンタープライズの開発需要に応えるための体制強化とは?

岩田:もともと「EC-CUBE」はオープンソースなので、ある意味不完全なものになっていて、そこを制作会社やホスティングベンダー、カード決済会社などとパートナーシップを組んで、1つのECサイトが構築される分業型モデルだった。

ただ、エンタープライズにおいては、従来の分業型モデルはうまく機能しない部分があると思った。建物も同じだと思う。2階建ての木造住宅を作るのか、大きなビルを作るのかでいえば、関わる工程も大きく変わるし、依頼する会社も変わってくる。

ミドル以下の市場は従来の分業型モデルでいいと思うが、エンタープライズ向けはそのプロジェクト向けの体制を構築していく必要があると感じている。

そこで2022年5月にボクブロックを子会社化して、そこを起点に大規模EC向けの構築チームを作っていった。ボクブロックはEC-CUBE Innovationsと社名変更した後に、2024年1月にイーシーキューブに吸収合併した。

既存のパートナーにも優秀な制作会社は多いが、大規模なプロジェクトに対応できるパートナーは少ない。自社で大規模システムを構築でき、継続的にサポートできるチームを作る価値は大きい。

プロダクトを持つイーシーキューブと、開発を行うEC-CUBE Innovationsが1つになることで、プロダクトを提供しながらニーズに応じた開発も提供でき、さらに開発で得た知見をプロダクトに生かすというサイクルを回すことも、間違いなく向上できていると感じている。

さらにイーシーキューブは執行役員体制に移行し、意思決定や事業運営をスピーディーに進められる体制にしている。

――恩蔵氏は1年程前にジョインし、執行役員CMOに就任している。恩蔵氏から「EC-CUBE」はどう見えていたのか?

恩蔵:エージェント経由で岩田と出会い、イルグルムにジョインすることを決めた。イルグルムには5つの輪ゴムを組み合わせたシンボルマークがあり、名刺には自由にその輪ゴムを配置し、自分だけのシンボルが作れる。たった1つの輪ゴムでも組み合わさると無限の可能性が起こるというメッセージも好きだし、「Impact on the World(1つ1つを大切にし、その行動の積み重ねが自分自身そして世界に大きなうねりを与えることができる)」というミッションにも共感した。

正直、自分の周りからは「EC-CUBE」を良く評価しない声も聞いていた。ただ、「EC-CUBE」は業界の認知度も高く、可能性は大きいと思っている。私たちの世代のEC関係者は、「EC-CUBE」を使ったことがある人が多い。この老舗の愛着のあるカートシステムがもう一度、盛り上がったら素晴らしいと思った。

私はグループの拡大に興味がありここにいる。「EC-CUBE」をさらにステップアップさせ、イルグルム全体をさらに大きく強くしていきたいとも考えている。

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