2024.01.16

【〈記者座談会〉2024年のEC市場予測】《② 物流》コスト増がサプライチェーンに波及


アマゾンの物流会社化にも注目


星野:アマゾンの物流会社化という点にも注目だ。アマゾンは、自転車と軽自動車の配送を可能にしている。これは配送会社や個人事業主の配送員でなく、主婦や学生でも、自転車や軽自動車を持っていれば、アマゾンの商品を配送できるということ。

ウーバーイーツのような配送が定着すれば、アマゾンの物流を大きく支えることになる。楽天市場で注文した商品をアマゾンの倉庫から発送して、アマゾンの配送員が消費者宅に運ぶことはすでに行われているが、それが拡大すると思う。

後藤:アマゾンは群を抜いて完全独自路線というか、巨大なインフラを作ろうとしている。アマゾンも物流の2024年問題を問題化させたままではいけないとする印象を受ける。労働環境を改善しようという取り組みを進める会社でもあるため、見習う部分は多くある。

酒井:少し話はずれるが、先日、ZOZOの倉庫に行った。休憩室が非常におしゃれで驚いた。こういうソフトのアプローチも大切だと感じた。

後藤:労働環境を良くする意味では、カフェテリアや共有スペースをおしゃれにするのはもっと当たり前になると思う。ここ数年に建設された新しい物流倉庫はおしゃれできれい、居心地が良いことが必要条件になっている。

酒井:そもそも、そうではないと個人的には働きたくない。

後藤:女性は特にそうかもしれない。手塚記者は、これまでの話を聞いてどうか。

手塚:ヤマト運輸は、外部の配送員を使うのを廃止して、日本郵便への委託に切り替えた。もしかしたら配送品質を気にしていたのかもしれない。もしくは、意外とヤマト運輸の荷物量がそんなに増えていないからか。

配送領域は、自社で仕組みを作ろうとするとコストが高いから、それぞれの強みをそれぞれでカバーする形に進んでいる気がする。

アマゾンは、星野記者が言うようにウーバーイーツ化しているというか、もっといろいろな人が配送に参加できるような方向に舵を切っている感じがする。ヤマト運輸はこれをやろうとしたが、断念したのか、見直したのかという感じだ。

星野:米国のアマゾンでは、一般消費者によるウーバーイーツ化した配送が定着している。例えば、配送に参加する人は、都心で仕事をしていて、郊外の家に帰るような人の場合、帰り際に、自分の車で都心のアマゾンの集荷センターで荷物をピックアップする。自分の住んでいる家の近くの人に配送する形だ。日本にはこうした動きはまだない。実際にどこまでできるか分からないが。


ロボ導入への期待感


手塚:政府の物流緊急パッケージがある。あれで予算がついて、具体的にどのぐらい倉庫のロボ導入が進むのか、期待感はある。ただ、ロボ導入は採算が合わないという中小の3PLの見解を聞いたことがある。

酒井:導入するロボの種類にもよるのではないか。

後藤:既設倉庫の場合、ロボを導入後、すぐに生産性が上がるわけではなく、ある程度の期間を見つつ、庫内作業の調整が必要だ。先行する投資コストを踏まえて準備が求められる。

予算の部分とは脱線するが、結局、ロボ導入費用をどっちが負担していくのか、という問題もある。荷主負担か倉庫負担なのか、これが結構、大きな問題。

倉庫契約は数年単位での契約となる。仮にロボを導入しても、荷主が抜けてしまうと機器の減価償却が変わる。また、倉庫内全体の生産性向上のために導入したとしても、設備投資分を倉庫管理費で補おうとすると、荷主からはなぜ値上げするのか、倉庫側で負担してくださいという具合になる。これはなかなか難しい問題だ。

今は、Gaussy(ガウシー)やプラスオートメーションが提供する月額制でロボが使えるサービスが台頭しているのは、そういう費用の問題もあると思う。

ロボから話がずれるが、配送会社を選ぶ時代にもなっている。先日、ある3PLの会社が、配送会社を一本化した。背景には、タリフが絡む部分が大きいようだ。今後はこうした動きが表面化していくと思う。

もちろん、ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便など、それぞれにあったメリットに差がなくなってきている。依頼先も配送方法も多様化している。配送する側は自社の強さを出していかないと他に取られてしまう時代に突入した印象を受ける。

星野:ロボの導入は災害時のBCP対策にも対応しそうだ。2017年2月に埼玉・三好のアスクルの倉庫で火災が発生した。ロボット化しておくことで、災害時の人的被害が抑えられるといったこともありそうだ。

後藤:確かに。今、導入が進んでいるロボは海外製が多い。ロボの情報自体も少なく、すぐに海外に真似されてしまうリスクがあるようだ。しかしながら、もう少し日本製品の奮闘もみたい。

酒井:あと、ロボットは冷凍などの温度帯とかに対応できていない。

後藤:そういう部分で勝負はできそうだが、なかなか難易度が高いような気もする。


宅配会社との関係性が3PLの差別化に


手塚:先ほど、後藤記者が言った宅配会社を絞る動きは、これからも結構増えそうで、そういう物流戦略を描く企業も増えるだろう。3PLから、うちは佐川急便と併設する物流施設を作っているから、好条件で配送してもらえるとか、ヤマト運輸とこういう取り組みしているから、長めにヤマトのメール便を使えるといった話を聞く。

宅配会社が厳しくなっている分、条件交渉も厳しい。ただ、宅配会社としては、効率的な配送ができる通販会社とか3PLなどに対しては、多少優遇するということはある。物流コストを抑える1つの戦略に、通販会社だけで取り組むのはなかなかできないかもしれない。その辺りを上手にやっている3PLと組んだりする動きはあり得る。

後藤:3PLからも、配送会社の配送センターの近くに倉庫があると、条件が優遇されるという話を聞く。近いから短時間で配送や集荷ができるメリットがあるとのこと。もちろん、それなりの物量は必要だと思う。



<記者が考える2024年のキーワード>


▲後藤工記者

「新技術と戦略的連携」

水面下で進む新しい技術やサービスの台頭に注目している。2023年に続き、各社の戦略的な連携も増えると予想。




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