2023.09.08

【コラム】食品・飲料業界におけるテクノロジーが支える収益性とサステナビリティーの両立

世界人口は2050年までに90億人を超えると予想されています。国際連合食糧農業機関(FAO)は、著しい人口増加が間違いなく地球上に多大な被害をもたらすとしており、すべての人に食料を行き渡らせるためには、生産量を60%増やす必要があると予測しています。気候変動による収穫量への影響と、食品サプライチェーン全体での廃棄の大幅削減という喫緊の課題に加えて、食品・飲料分野においてサステナビリティーを取り入れることへの期待が、未だかつてなく高まっている理由は容易に想像できます。

「サプライチェーンのプレッシャー」「顧客の需要と嗜好の変動」「利鞘の圧迫」などを背景に、食品・飲料業界の企業は、なるべく少ない労力で、なるべく多くの成果を出すことを目指さなければなりません。業界に求められているのは、サステナビリティーの証明を推し進めながら、コスト削減も行うことです。たとえ、市場の変化で大混乱に直面したとしても、収益を維持することが求められています。

この難題に対して、多くの人はサステナビリティーと収益性の両立は、本当に実現可能なのかと疑問を抱くでしょう。不可能だと思う人もいるに違いありません。しかし、現実問題として、もはや選択の余地はありません。サステナビリティーは、食品・飲料業界でビジネスを行う上で“Nice To Have(あると良いもの)”ではなく、必要不可欠なものへと、急激なスピードで変わっています。企業は人口増に対応する十分な食糧を生産することに加えて、環境負荷を低減しながら、利益を得ていかなければならないのです。

例に漏れず、解決策になるのはイノベーションです。適切なテクノロジーを、適切な方法で応用することで、最大限の歩留まりを得ることができます。廃棄物の削減と業務効率の向上を実現すれば、最終的に食品・飲料業界におけるサステナビリティーと収益性の両立を支えることができます。
 

サステナビリティーは急務の最優先課題


食品・飲料業界にとって、サステナビリティーは決して新しいトピックではありませんが、ここ数年間は特に、最優先課題として浮上してきました。「食料生産60%増の予測」と「環境負荷」に配慮しなければならないだけでなく、食品廃棄量も非常に多くなっているからです。世界で生産される食料の約3分の1が、毎年廃棄されているのです(3分の1には、生産計画や冷蔵管理の不備による輸送中の廃棄、生産過程での廃棄が含まれます)。購入する商品を選ぶ際にサステナビリティーを考慮する消費者が増えており、企業のサステナビリティーの証明に目が向けられることが多くなってきています。

サステナビリティーを求める規制圧力は強くなる一方です。食品・飲料サプライチェーンのグローバルな性質上、企業が国際市場でのビジネス継続を目指すのであれば、地域や国特有の持続可能性要件はすぐにグローバル化してしまいます。国境を越えて適用されるようになるのです。エネルギー費用の高騰を受けて、エネルギー効率を重視する企業も増えています。コスト削減に向けた幅広い取り組みの一環として、サステナビリティーを取り入れるのが当たり前になってきているのです。つまり、あらゆる方向から、サステナビリティーを高めなければならないというプレッシャーがかけられています。


成長を可能にするサステナビリティー


サステナビリティーに目を向けるとき、サステナビリティーへの取り組みから得られる利益について検討することは避けられません。そうすることで、環境への取り組みに投資するための強力なビジネス事例を築くことができます。

他の業界と同様に、環境に関する信頼性を証明できる食品・飲料企業が利用可能な優遇融資オプションを目にする機会が増えています。さらに、持続可能でない原材料調達方法は、現在もこれからも、コストがかさむようになっていくでしょう。廃棄物削減が収益につながることは間違いなく、革新的な食品企業の中には、副産物を有効利用し、新たな収益源に変えているところもあります。

人材確保もまた、サステナビリティーを高めることの大きなメリットのひとつです。すべての人のためのより良い世界の実現に貢献しているような、倫理的な企業で働きたいと考える従業員が増えています。労働力不足が急速な勢いで生産性への脅威となりつつある業界では、減少する人材プールから好きな人材を選ぶことができるというのは、魅力的であることに違いありません。

おそらく、誰にとっても重要なことは、持続可能な商品への需要の高まりです。つまり、今後はサステナブルな企業が、市場でより大きシェアを勝ち取っていくでしょう。そして、より多くの企業が、サステナビリティー基準を遵守していきます。環境負荷を減らすための取り組みを証明できるような、サステナブルなサプライヤーとしか取引をしなくなってきているのです。
 

もはや選択の余地はない


食品・飲料業界では、長期的な事業成長を見据えるのであれば、サステナビリティーを「取り入れるかどうか」ではなく「いつ取り入れるか」を検討しなければなりません。最初に挙げた難題に答えるなら、「サステナビリティー対収益性」というように考えるのではなく、「サステナビリティーと収益性はイコールである」と考えるべきなのです。
 

持続可能なリスクアセスメント


このように、サステナビリティーを高める必要性があるものの、一部の企業にとって、サステナビリティーを取り入れることは、いささか労力を要します。多額の投資を伴う可能性があるということは間違いありません。現実には、それは必ずしも事実ではなく、もっと小規模で、的を絞った環境への取り組みが、真の変化をもたらす鍵となるケースもよくあります。

それぞれの企業は、サステナビリティーの取り組みに着手する前に、サステナビリティーを取り入れない場合のリスクを十分に精査する必要があります。そのために必要なデータには、事業に関するものだけでなく、サプライチェーン全体からのデータも含めなければなりません。企業は、重要なデータにアクセスすることで、サステナビリティーを取り入れない場合に直面するリスクを十分に評価することができるのです。データにアクセスすれば、サステナビリティーが事業の成長と収益性を実現するための重要な要素である理由と方法を、具体的に知ることができます。データによって、企業が現在与えている環境負荷を確実に把握し、どのような取り組みがサステナビリティーと収益性の両方に最大限の影響を与えるのか、特定するための出発点に立つことができます。

また、サプライチェーン全体でのコラボレーションが鍵でもあります。コラボレーションを促進するのがテクノロジーについてです。食品・飲料業界の基幹をなすサプライチェーンは、非常に複雑で多面的なため、事業が環境に与えている影響を正確に把握する必要があります。利益を上げながら、環境への影響を最小限に抑えるにはどうすればよいかを検討する際に、スプレッドシートや手作業のプロセスは適していません。
 

データに基づく洞察


膨大なデータを取り扱うなかで、利用可能なデータをどのように扱うのかを知ることによって、大きな違いをもたらすことができます。必要なのは、サステナビリティーの機能が組み込まれたソリューションです。企業や、企業が事業活動を行っている場所で、急速に変化する法規範の状況に応じて進化するテクノロジーが必要なのです。サプライチェーン全体の情報をひとつの情報源に集約し、機械学習技術を応用することで、これまで見つからなかった実用的な洞察が得られます。どのようなサステナビリティーへの取り組みが、利益を向上させながら環境負荷を減らす上で最大の効果をもたらすのかを、知ることができます。

たとえば、予測精度の向上により、サプライチェーンのあらゆるポイントで無駄を削減し、生産過剰や生産不足に関連するコストの削減が可能になります。歩留まりの最適化もまた、環境と収益の両方にとってメリットがあります。これに関しても、適切な洞察を用いて企業のオペレーションを最適化することができます。また、サプライチェーン全体のデータへのアクセスは、賞味期限の動的管理や、スマートシェルフといったイノベーションを支えるとともに、企業が顧客に重要な生産情報を提供できるよう支援します。これらすべてが食品・飲料業界における環境負荷の低減につながり、顧客満足度を高め、顧客の期待に応え、さらには顧客の期待以上のものを提供するのです。

 こうした可視性、コラボレーション、洞察に基づく意思決定こそが、食品・飲料業界が地球の未来を守る責任を担いながら、収益性を維持するために極めて重要です。今日、サステナビリティーの取り組みに対する投資は、膨大な量のデータを最大限に活用する技術を用いることで、長期的な収益性を確保するための最も費用対効果の高いアプローチになります。適切な洞察が、正確な情報に基づいた意思決定の礎を築きます。企業が個々の事業の制約やパラメーターのなかで最もサステナブルな成果を達成して、長期的な視点で安全性と収益性の高い成長を実現できるよう、あらゆる段階で支援します。


【著者】

▲インフォア アジア太平洋地域・日本担当シニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー テリー・スマグ(Terry Smagh)氏






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