2023.08.15

【物流の2024年問題】<専門家の視点>東海大学 小嵜秀信客員教授「問題を好機と捉え、値上げ対応を」

東海大学 総合社会科学研究所 Eコマースユニット 小嵜秀信客員教授


東海大学でECなどを研究する小嵜秀信客員教授は、物流の「2024年問題」について、「問題」と捉えずにビジネスチャンスと考えるほうが得策だと指摘している。「2024年問題」は、通販EC事業者にも影響が出ることを前提に対策を講じていく必要があると話す。



鍵はヤマト運輸の動向


――「2024問題」で今後の物流はどう変わるか?

2017年の「宅配クライシス」から24年問題をひも解く。
 
ヤマト運輸の宅配料金値上げを契機に、佐川急便、日本郵便も相次いで値上げした。この状況は、今の24年問題と同じ進み方だろう。ただ、結果はヤマト運輸などで顧客離れが進み、料金の値下げにつながった。
 
前回と同じ進み方となれば、値下げする形はありえる。最終的に鍵を握るのは、ヤマト運輸の動向だろう。

ただ、今回は物流業界の働き方改革が主であり、政府主導であることが「宅配クライシス」との決定的な違いだ。

政府が発表した物流政策パッケージからみると、改善しないといけない部分が多い。加えて、運送業界の働き方改革の影響で、労働力不足への対応と同時に運賃も絡んでくる。通販EC事業者も値上げを考慮した対策を講じる必要があるだろう。

一方、2017年の時には、3PL事業者の配送網が広がった。当時は、構築ができなかったが、今回は物流自体が大きく変わる。共同配送や地域配送なども進んでいる観点から見ると、3PLの配送動向には注目が集まる。

大手宅配会社が拾いきれない宅配を、第3、第4の宅配企業がどのように参入していくのかもポイントだろう。


他社を圧倒するアマゾンは注目


――「2024年問題」に対する企業の動きはどうか?

アマゾン物流は見習うべきポイントが多いと思っている。倉庫内の自動化など含めた物流網などは他社を圧倒しているとみている。

昨年12月の新しい配送プログラム 「Amazon Hub デリバリーパートナープログラム」に続き、今年の3月末には独自の配送ビジネスの起業支援「デリバリーサービスパートナー(DSP)プログラム」を発表し、自社配送網を強固なものにしている。アマゾン自体が、下請け問題を大きな問題と捉えていることも注目だろう。

アマゾンを真似するのは難しい。しかし、アマゾンが提供する顧客体験などは真似していくべきところだろう。注文した商品が届くまで、ずっと顧客とつながっている状況は、まさに良い顧客体験。これをどう見るかは企業次第だが、こうした細部にまで対応しているのは、アマゾンだけではないか。
 
――販売店の状況はどう見ているか?

「2024年問題」は、販売店にも影響が出るだろう。
 
例えば、年商10億円以下の通販EC企業で見た時、配送料金は上がりっぱなしで、実は下がっていない。現状維持が続いているため、収益を圧迫している状態だ。
 
商材は小型でポストに投函できるアイテムの販売が主だ。ただ、このポスト投函の費用もどうなるのか先が読めないところがある。スタートアップ企業の販売アイテムは、美容や健康、アパレルなど小さくて軽いものが多くなっている。
 
今回の「2024年問題」の状況を踏まえると、ポスト投函の費用も1割以上は値上げする可能性が高い。つまり、販売店の収益がさらに悪化する可能性があるだろう。
 
――「2024年問題」で取り組むべきことは?

顧客満足度の向上が重要だと判断している。運送業界の変革は、政府主導により法制化も含め強制的に実行されることが決まっている。この流れの中でどうしていくかが鍵だ。
 
この「2024年問題」の変革に対して、販売事業者が顧客に対して何をしていくかが鍵となる。その一つが顧客満足度の向上だろう。顧客満足の在り方は企業によって、商材によっても異なる。
 
ただ、この「2024年問題」は見方を変えればチャンスでもあるため、起こり得ることを整理し、次の手を早めに打つことが重要だろう。








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