2023.08.01

老舗100億円通販企業がデジタルでも売れるようになった3つのポイント


老舗といわれるような大手通販企業もこぞってデジタルシフトを進めている。しかし、上手くいく企業と上手くいかない企業が存在する。その差はどこにあるのか。大手通販企業の支援実績が豊富なエスキュービスム 取締役 梅木研二氏と、富士ロジテックホールディングス 顧問 吉村典也氏に聞いた。



――D2Cブームがコロナ禍を経て見直しを迫られています。その中で、D2Cブームの前から通販市場で顧客の支持を得てきた企業もモデルの再構築をされています。この状況について教えてください。

吉村:「日本ネット経済新聞」の記事などでも認識されていることではありますが、簡単に環境を整理してみます。

・日本全体としては、長寿化+少子化(結婚もしない)=高齢化+個独家(個々人で生活だけが独立している、一人家族化や同居家庭状態)が進んでいます。

・今までの、「通信販売」の市場であった、オフラインの顧客層が高齢化してきている。

・60歳以上の顧客層でも、デジタル化(スマートフォン)を情報源として利用する時代になってきている。

・しかしまだ、オフライン注文やコミュニケーションは大切なチャネルである。(通販企業で年商100億円を超えている企業で、オフラインチャネルの代表でもあるコールセンターを無くしている企業はない)

・通販企業として、創業者の世代から次世代へのバトンタッチや、M&Aも含めて、ビジネスモデルの変革への取り組みが進んでいる。

・次世代の経営者やマネージャーは、企業のモデルを、オフラインがメインのシングルチャネルから、マルチチャネル(自社ECとマーケットプレイス)へ、そして、オムニチャネル(リアル店舗も含めて)に変化していく必要性を身をもって体験している。

・M&Aで創業者が会社を譲渡して、新しい経営者のもとでデジタル化シフトで再成長している企業の事例が増えてきている。

という状況だと思っています。

梅木:クライアントのテーマとしては、

①多様化する顧客接点への追従の必要性

②サービスレベルへの要求があがって来たことに対するCRMの再構築

③システム構造の限界

の3つがあります。

――具体的にお伺いしていきたいのですが、消費者を理解することの大切さがより強調されてきています。「買い物をしているのは誰か」「消費者は企業の製品をどのように使用しているのか」この質問に答えるのは必ずしも簡単ではありませんが、それは絶対に不可欠だと言われています。①「多様化する顧客接点への追従の必要性」の企業のケーススタディも交えて教えてください。

梅木:例えば、とある食品系通販さまでは、もともと商品力が非常に高く、リアルの催事では高い売り上げを維持しておられます。しかしながら、催事という定期・不定期のイベントで獲得した新規顧客をECへ誘導し自社の定期顧客化するためにも、オムニチャネル化が必須であることに気付かれて、オムニチャネル化の方法を検討されておられます。

これができないと、いつまでたっても自社CRM基盤で、ID化された顧客情報にならないからです。少子高齢化や食文化の変化により、市場(胃袋)が絶対的に縮小する中で自社をわざわざ選んで頂くためにも、オムニチャネル化による複数の顧客接点が必要になっているわけです。

大手の総合通販様ではショールーム、カタログ、EC、電話と複数のチャネルをまたがった売価の統一や接客の統合運用について、歴史的に積み重ねてきた複数のシステムをまたいだ業務運用に非常に苦慮されておられました、これらを統合することで「顧客不便」のより一層の解消を目指すような取り組みが加速しています。

地方の有力通販様ですと、自社の商品だけでなく、地域の商品も委託されて自社で併せて提案されるようなケースもあったり、地域や商品に対する情熱をまずきちんとお伝えするウェブメディアありきのケースもあります。

当然、上記企業様方は完全にデジタルに振り切っているわけではなく、あえて長電話をいとわないようにしているコールセンターでの接客や、お手紙・DM等の従来の、且つ効果のある手段を組み合わせて顧客に対する自社の価値最大化をはかっておられるわけです。

これらに共通していることが①「多様化する顧客接点への追従の必要性」です。一般的に日本では、オムニチャネル概念は「店舗」を持つ小売業が、Eコマース化に取り組んできた概念です。

しかし、スマホやタブレットの普及による広告やDM(ダイレクトマーケティング)のデジタル化シフトの加速やコロナ禍を経たことで、「通販市場」:オフライン・アナログコミュニケーションのメイン顧客層だった、アクティブシニア層がデジタル活用への慣れてきたこと、物理的なオフライン(新聞やチラシ)への接触頻度の減少と、レスポンスの低下に伴って、自社の顧客との接点とナーチャリング上のタッチポイントが複雑化してきたため、通販業界でもオムニチャネルを前提としたCRM設計が必要になってきていて、ご相談を受けることが凄く増えてきています。

――消費者は現在、都合の良いときに、自分の選択したチャネルを通じてオンライン ショッピングをしたいと考えています。すべてのインタラクションを収益化することは、ビジネスとしては、理にはかなっていますが、それはソーシャル メディア プラットフォームやモバイル アプリに「購入」ボタンを追加して、それを押すだけではないはずです。オムニチャネル コマースの概念が、長い間存在しているにもかかわらず、まだ普及していないのは理由も含めて、<顧客サービスレベルへの要求があがって来たことに対するCRMの再構築>が必要になってきているケーススタディを教えてください。

梅木:②「顧客サービスレベルへの要求があがって来たことに対するCRMの再構築」については、スキンケアで培った、100億円の売上を数年で倍にしたい、SKUも多品種化してきている。従来の単品リポートモデルで培った、同梱物での、クロスセル、アップセルのコミュニケーションを、デジタルでもシームレスに展開したい。

・商品ブランドも、オーディエンスの拡大と変化に応じて、多ブランド化してきたが、顧客IDは統合したい。

・機能別に導入していた、CX関連のシステムを、MAに統一してCXを実施していきたい。

というご相談がありました。

先ほどのような、タッチポイントとナーチャリングを顧客別に個別最適化させることがポイントになってきています、パーソナライズを通販事業者が、それぞれの視点で、設計・分析、実施、運用されて、取り組みをされていますが、従来のオフラインで得られる情報は、結果だけで「RFM」に代表される仮説・分析だけでは、充分に顧客のニーズを判断できない状況に陥っています。

オフラインからの流入・購買実績を中心としたCRMから、オンラインとオフラインの 利用傾向把握等、つまりは購買前行動からのCRM設計の必要性・必然性が高まっているのです。

ブランドがオムニチャネルで顧客の体験にフィットするコミュニケーションを実現するには、すべてのシステムと顧客対応と、スタッフの間でデータがシームレスに流れる方法で、すべてのチャネルが接続されていて、調整されることが重要だと気付きました。

これは、すべての注文履歴などを確実に1カ所で行うために、POS (販売時点情報管理) システムを e コマースに接続することだけではなく、オフライン購買データやコミュニケーションデータを接続することが大切だということです。

――顧客を理解し、顧客に近づく、オムニチャネル戦略を通じて消費者とスタッフの関係性を支援する、ということついて概要をお話しいただきましたが、これはデータを整理するまでは機能しないと思うのですが データとワークフローの視点から、「システム構造の限界」についてどのような課題が寄せられているのか教えていただけますか?

梅木:③「システム構造の限界」とは、単品リピート通販のAPSシステムを利用していたが、ベンダーの都合で新サービスの導入が進んでいなかった、このままでは、顧客へのカスタマーサポートの改善に対応出来ないために、オフラインとオンラインを繋ぐ、顧客コミュニケーションを実現するために、リプレースを実施した。というベンダーロックされたことでの事業成長への壁が生じていたり、自社フルスクラッチ開発したシステムがデジタル化に対応するための、改修コストが高すぎるという問題を抱えていたりされていました。

長らくビジネスモデルが変わらず、一度導入したシステムをかなり長く使っている企業が多いのもこの業界の特徴です、自社のこれまでのマーケティングや業務プロセスには、最適化されているが、当時のシステム導入時には想定されなかった事態(EC化率の向上、アクティブシニアのデジタルシフト、SNSのさらなる普及、D2Cを謡い、ECオリエンテッドな競合他社の容易な参入)にさらされ、そんな中でもなんとか現行IT資産を活用して、ビジネス部門の要求に応え続けたIT部門ですが、いよいよ現行システムでは、先ほどの課題で特徴的な、新しいCXを実施できるような基盤に再設計していきたい、変えていきたいとのニーズなどからも、システムの延命がもう限界だとの認識になってきています。それは、機能拡張の限界を訴える声をよく聞くようになったということです。当然、旧来システムであるがゆえに、セキュリティも脆弱であることが否めない点もあります。

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