2023.03.08

【連載〈第9回〉】フルフィルメントで「ブランド体験」をつくりだす

 

顧客が本当に求めることを考えて、物流の形を考える


現在、最も多くの物流を担う会社は、おそらくAmazonだろう。Amazonの特徴は何といっても、当日配送や翌日配送を可能とする仕組みを持っていることだ。そのAmazonの利用者が増えたことに伴って、当日配送、翌日配送というニーズが増しているのを痛感している。

では、自社で物流を担う企業も、Amazonにならい、迅速な配送体制を構築するべきなのだろうか。ここに頭を抱える経営者が多いように感じている。すべての商品を無理に当日や翌日に配送する必要はないというのが私の持論だ。

確かに、毎日利用するような化粧品であれば、商品が切れたとき、できるだけ早く届いてほしいと願う人は多い。だが、雑貨のような商品まで当日配送、翌日配送を実現する必要があるのかは疑問である。

当日配送、翌日配送を実現するためには、倉庫や人員を確保するなど、それ相応の体制を整えなければならない。そこには当然コストが発生し、それは販売価格に転嫁せざるを得ない。そのため、最終的には顧客の不利益につながりかねない。

コストを下げたり、迅速な配送体制を構築したりといったことは、どの会社も考えることであるため、つい、自社もその競争に参加しなくてはならないように感じてしまいがちである。

だが、ここでも一番重要なのは、「そこに自社のブランドが表れているかどうか」だ。

ここまで見てきたように、段ボール、パッケージ、梱包、配送体制といった物流面も、ブランド・アイデンティティーを伝える要素の一つとして機能する。商品の性格や顧客の属性などを考えながら、自社に合う物流の形を検討していくとよいであろう。

 

決済における顧客体験にもブランドとの一貫性を


フルフィルメントとしては、「顧客に届けるまで」だけでなく、「届けた後」の体験も重要だ。その一つとして考えていただきたいのが、「決済」である。

代引き、コンビニ振り込み、クレジットカード、キャリア決済、Amazon Pay、○○Pay、振込用紙など、現在は多種多様な決済手段が登場している。企業側からすると、「コスト」を一番に考え、なるべく手数料が低い決済方法を選ぼうとしてしまいがちだ。だが、ここでも商品や顧客の特性に合わせて、自社に最適な決済手段を選択することが大切といえる。

例えば、高齢のお客さまなどは、「代引き」による決済を好む傾向がある。ネット上にカード情報を入力することや、そもそもパソコンを使うこと自体に抵抗があったりするため、商品を手にするときに代金を支払う方式の方が、安心感があるのだ。

しかし企業側からすれば、代引きは運送会社に支払う手数料が高くなりがちだ。対応できる運送業者も限られてくるため、どうしてもコストはかかる。クレジットカード決済であれば数百円程度ですむ手数料が、代引きにすることで数倍になったりもする。当然、利益もその分減ることになり、原価も大きく変わってくる。

コンビニ振り込みや振込用紙による後払いも、高齢の顧客にとっては安心感があるが、企業側からすると未回収リスクを考慮しなければならない側面が強い。

そういったマイナス面があったとしても、安易にコストカットに流れず、「自社のブランドとして、どこまでのコストを許容するか」を議論することが重要だ。その過程に、ブランドに対する企業としての考え方が表れる。

逆に若い顧客がターゲットであれば、キャリア決済、Amazon Pay、楽天ペイ、LINE Pay、PayPayといった、近年登場したキャッシュレス決済の手段を導入する必要性が高くなるだろう。定期購買の事業であれば、クレジット決済の方が解約されにくく、データを蓄積していきやすいという利点もある。

お客さまに寄り添う姿勢を大切にすると言いながら、決済手段はお客さまにとって不便なものであれば、そこに一貫性があるとは言えない。それに、普段から慣れ親しんでいる決済手段がないことを理由に注文に至らなかったという顧客は、意外と多いものである。

コストなど諸事情との関係でどこかで線引きをする必要はあるが、顧客に合わせた決済手段を準備することもまた、顧客の満足度を上げる重要な要素だ。ブランド体験として、ブランドが顧客に伝わる部分でもあるのだ。

CRM活動とともに物流や決済といったフルフィルメントの分野においても、BIを一貫して表現することが顧客に響くブランド体験となるのではないだろうか。







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