2023.02.24

【第2の宅配クライシスは本当か?】前回との違いを分析 今回は「小幅」「柔軟」な値上げか?!


ヤマト運輸と佐川急便の届け出運賃値上げに、EC業界は揺れた。法人顧客への値上げ要請も一部ではすでに始まっている。多くの事業者が「宅配クライシスの再来」を警戒したのではないだろうか。今回の値上げの動きは、前回の宅配クライシスと同じ現象なのか、EC物流に詳しいコンサルタントなどに聞いた。


「宅配クライシス」はヤマト運輸が2017年春、宅急便の総量規制を決め、値上げを発表したことに端を発する。長年、料金が下がっていた宅配運賃が一転、値上げとなったことで、EC業界はその対応に迫られた。

ヤマト運輸に配送物の多くを委託していたアマゾンはそこから、自前の配送インフラの構築を加速した。値上げも痛いが、総量規制で注文を受けても送れない状況に陥ったEC事業者は、宅配会社の併用などによる分散化にも着手した。

2017年当時の「宅配クライシス」の背景には、ドライバーへの未払残業問題があった。体質改善を一気に図るために、市場拡大で膨れ上がるEC商品の配送を抑制したり、運賃を値上げしたりする決断を下したわけだ。


今回は「適正運賃」の見直し


今回の値上げはどうか。ある物流関係者は、「佐川急便は2022年末に、公正取引委員会から『下請け企業からの値上げ要請に対応しない企業』として社名公表を受けていた。これが今回の値上げに踏み切る要因になったのではないか」と指摘した。

下請け企業からの要請もそうだが、大きな背景として、物価高騰があるのは間違いない。さらに「2024年問題」といわれる宅配ドライバーの時間外労働時間制限への対応も、宅配会社の念頭にはある。

こうした値上げのトリガーの違いを分析し、物流のコンサルティングや支援を行うロジコンシェルの近藤正幸社長は、「前回とは違う」と指摘する。

「以前の『宅配クライシス』は、宅配会社が荷主獲得競争で長年値下げしてきた反動もあった。今回は外部環境による影響が大きく、以前の宅配クライシスとは様相が異なる」(近藤社長)と話す。

以前の「宅配クライシス」は適正運賃から大幅に下がっていた状態を適正に戻す動きだったが、今回は環境の変化から適正運賃自体を見直す動きといえそうだ。


※ヤマト運輸の決算資料のデータから作成

以前は値上げ幅も大きく、さらに総量規制や値上げの交渉も比較的強引に行われた印象だった。ヤマト運輸はアマゾンとの交渉した結果、委託される荷量が減り、その後、アマゾンに荷量を再び増やすための交渉を行ったという報道もあった。

過去の経験から、ヤマト運輸や佐川急便はEC事業者に対して、小幅な値上げを柔軟な姿勢で交渉していく可能性が高い。実際に佐川急便から値上げを打診された事業者から、「一般向けの運賃ほどの値上げではなかった」という声も上がっている。


包括的な支援も提供


物流コンサルティングを提供するリンクスの小橋重信代表は、「ヤマト運輸は中期経営計画『Oneヤマト2023』でサプライチェーンをトータルに支援するビジネスパートナーへ進化すると発表している。法人営業を強化し、値上げの問題にも柔軟に取り組んでいく姿勢のようだ」と話す。

ヤマト運輸は宅配だけではなく、ECエコシステムの確立にも注力する。包括的な支援体制で業務効率化やサービスの向上まで支援していく方針のようだ。






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