2020.09.15

【記者コラム】「トウキョウソナタ」を思い出す

コロナは消費スタイルを見直すきっかけに

先日、食品ECを運営するある企業の社長に取材した際に、「コロナで変わってしまった世界はもう元には戻らない」と言われました。

その企業は、マツタケやカニ、シャインマスカットなどの旬の高級食材を扱っていいますが、コロナが流行した3月以降、大きく需要が伸びて、昨年1年間の売り上げを4~6月の3か月間で達成してしまったそうです。

 その社長は、売り上げが大幅に伸長した理由の一つとして、大手企業のサラリーマンなどの富裕層が、外出自粛で、外食をしなくなったことを挙げていました。テレワークで会社に行かなくなった富裕層が、外で使っていたお金を、自宅で過ごすために使うようになったというのです。

「テレワークの浸透は、コロナが収束しても変わることはない。巣ごもり消費は今後も続き、特に東京都内のサラリーマン相手の飲食店の苦境は続くだろう」と話していました。

 「飲食業界の苦境が続くのは、巣ごもり消費がふえたからだけではない」とも言っていました。その社長曰く、「“働かない人”があぶりだされたことも飲食不振の要因になっている」のだそうです。多くの企業がテレワークを実施したことで、会社員の中でも、在宅で仕事を進める人間と、進まない人間の差が、はっきりと見えるようになったといいます。その結果、仕事の報酬を、勤続年数や就業時間だけでなく、成果で決める会社が増えるようになっていると、同社の社長は話していました。

「これまでは、とりあえず毎日出勤するだけでそれなりの給料をもらっていた人も、会社帰りに飲食店にお金を落としてくれていた。多くの会社の評価の軸が、『年功序列』から『成果』に急速に代わっていく中で、自らの消費スタイルを見直す人が増えているのはないか。そうした流れから、飲食店に通うのを控える人も増えているのではないか」と、同社の社長は話していました。

そんな話を聞いて、私はふと、黒沢清監督の映画「トウキョウソナタ」を思い出しました。ある企業の中間管理職だった男性がリストラに合うことで、その男性の家族との関係が狂い始めるという話です。成果報酬が必ずしもリストラにつながるものではないですが、あの映画のような家族がいま日本中で生まれ始めているのかと思うと、どこか底知れない不安を掻き立てられます。

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