2023.03.31

米国大手ECの10%はモール型 日本でも中堅プラットフォーマーは台頭するか?!【EC市場の未来予測を聞く(後編)】

デジタルコマース総合研究所の本谷知彦代表(左)とMirakl 佐藤恭平社長(右)

【EC市場の未来予測を聞く(全3回)】
Mirakl 佐藤恭平社長 × デジタルコマース総合研究所 本谷知彦代表


フランス発のマーケケットプレイス構築SaaSを提供するMirakl(ミラクル)は今年1月、考察レポート「国内BtoC‐EC市場の近未来予想と活性化への期待」を発表した。同レポートでは、国内EC市場が2030年頃にピークアウト(頭打ち)するという予測を掲載するとともに、EC市場の成長余地を広げる4つのシナリオを提案している。レポートを作成したデジタルコマース総合研究所の本谷知彦代表と、ミラクルの佐藤社長に、第4のシナリオとして提案している「ミディアムサイズプラットフォーマー」の可能性について聞いた。



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――EC市場の成長余地を広げる第4のシナリオとして、「ミディアムサイズプラットフォーマーの台頭」を挙げているが、グローバルの状況はどうか?

佐藤:米国や欧州では、大手小売企業の多くがECサイトにおいてマーケットプレイスモデルを採用している。Miraklのメンバーがまとめたデータでは、米国における2016年のトップリテーラー500社のうち、マーケットプレイスモデルは5社くらいだった。これが、2022年にはトップ500社のうち、50社近くがマーケットプレイスモデルになっているという。

――「ミディアムサイズプラットフォーマー」が国内でまだ育っていない要因は?

本谷:自社のMDを過信している面があると思う。各社、長年かけて現在のMDを築き上げており、そこから大胆に変えることができない。ネット時代、SNS時代の今、消費者の感覚は移ろいやすくなっている。今まで売れていたものが売れなくなりやすい。MDの重厚さは命題だと思う。

日本には構造的な課題もある。卸売(wholesale)販売額に対する小売(retailer)販売額の比率を表すW/R(ダブルアール)比率を見ると、2022年の日本は小売に対して卸が2.44倍大きく、それに対して米国は1.44倍となっている。日本は卸を介した流通構造がかっちりとできあがっている。

卸売業の営業利益率は1%くらいと、小売業の2~3%くらいと比べると低く、卸売業は薄利多売でどうやって効率的に商品をさばくかを優先しがちだ。卸売を介した流通構造において、ダイナミックにMDを変えていくのは難しい。「ミットサイズプラットフォーマー」は既存の流通構造から脱することができない小売企業への問いかけでもある。

――「ミッドサイズプラットフォーマー」がピンとこない日本の事業者も多いと思う。海外ではどのような成功事例があるのか?

佐藤:自社のコンセプトや、自社製品を中核において、それに沿った商品をラインアップとして広げていく事例が多い。

例えば米国のメイドウェルはもともと、ジーンズをメインとしたアパレル企業だが、ブランドコンセプトとしてダイバーシティ(多様性)を前面に出している。MiraklのSaaSを導入し、自社商品としてジーンズを販売しながら、ローカルショップのアクセサリーなど、ジーンズと合わせるのにお薦めのアイテムをマーケットプレイスにそろえていった。そんな中、米国で「ブラック・ライヴズ・マター」と呼ばれる人種差別抗議運動が広がっていった。その流れに呼応して、メイドウェルは黒人経営者のブランドを積極的に取り扱い、支持を集めていった。

フランスではサーキュレートエコノミーを前面に出し、化学繊維を使ったアイテムを取り扱わないマーケットプレイスがあったり、滞留在庫しか扱わないマーケットプレイスが出てきたりするなど、おもしろい動きがある。

――ECモールのようなプラットフォームを構築したり、運営したりするのは大変そうだ。

佐藤:国内ベンダーさんは、ECパッケージをベースに手組みでマーケットプレイスを開発しているイメージが強い。構築するSIも納品して終わりで、その後の運用は自前でやるしかなく、追加開発が生じた際のコストも大きい。

当社はマーケットプレイスを構築する仕組みをSaaSで提供している。グローバルで350社以上のクライアントのマーケットプレイス構築を手掛けており、その分野のエキスパートがいる。いかにマーケットプレイスとしてビジネスを作るか、カテゴリー戦略をどう考えるべきか、どういうエクスパンションモデルを取るべきか、などを経験や実績に基づき、クライアントと一緒に考えていくことができる。

「今さらプラットフォーマーになんてなれない」と言う日本企業は多いが、われわれのソリューションはSaaSなので、莫大なIT投資は必要ない。「アマゾン」や「楽天市場」のようなプラットフォーム投資をしなくても、マーケットプレイスの仕組みを生かしていただけるのが一番の導入メリットだ。「プラットフォームの民主化」を日本でも推進していきたい。



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