リアルの“負”解消のため、冷凍ケーキに注力
――バレンタイン以外でも通販は強化しているのか？通販は強化していきたいと思っている。百貨店はハレの日の消費がメインで、通販も菓子については比較的ハレの日の消費で利用する需要が多かったと思う。それがコロナを機に新しい菓子の楽しみ方も芽生えつつあって、ハレの日の菓子をケの日に楽しむ流れが出てきていると感じる。あまり低単価になると量産技術勝負になるので苦しいが、日常のプチぜいたくの市場にはこれまで以上に入っていきたい。
当社では冷凍ケーキにかなり前から力を入れている。もともとはクリスマスシーズンに実店舗でお客さまに1時間以上並んでいただく状況を何とかできないかと考えて、予約して宅配できる冷凍ケーキを開発した。昔は冷凍ケーキというとあまりおいしくないイメージもあったが、すごくおいしい冷凍ケーキを作れば、店で並ばなくても、予約注文して自宅で受け取るお客さまが増えるだろうと考えた。
冷凍ケーキにも注力している何年も前から取り組んできたが、1年半前から環境を整え、百貨店とタイアップで販売を開始していた。世界選手権に出たシェフが冷凍ケーキのベースを考えた。業界でも有名なシェフが冷凍ケーキを作り、名前を出して販売するのは、かなり珍しい取り組みだ。もしかしたら業界初かもしれない。コロナ禍で通販や冷凍食品のイメージがだいぶ変わってきたと思う。昨年のクリスマスは計画よりも多く冷凍ケーキが売れた。購入者のレビューには「おいしくてびっくりした」というコメントもあった。喜んでいただいていると手応えを感じている。
生協の売上が2年で4倍、新たな気づき
――コロナ禍で新たな気付きはあったか？商品の新しい魅力をお客さまに教えていただいた。当社の商品が生協のカタログなどで結構売れた。2年前と比べると売り上げは4倍近く伸びている。生協のお客さまは、食の安心・安全に対して意識の高いお客さまが多い。巣ごもりでちょっといいものを食べたい、運動しにくいから良い材料を使っているもの食べたいというニーズと、当社の商品が合致したようだ。この経験から「安心の素材ですよ」とアピールする可能性に気付くことができた。既成概念が崩されていくのはありがたい。
――今後、実店舗や通販をどのように取り組んでいくのか？実店舗では百貨店の広告・チラシで集客を図ってきたが、通販を強化する中でSNSでのマーケティングが有効だと分かってきた。若い層の方に百貨店で買っていただくためにもSNSは欠かせない。一時期、O2O（オンライン・トゥ・オフライン）ということで店と通販の行き来をどうデザインしていくかというテーマがよく語られた。そこまで堅苦しく考えなくても、通販でも実店舗でもどちらに来ていただいても構わない。
ただ、今は通販に力を入れている。現実問題として（2020年の）4、5月には全社売り上げが7、8割下がっているときがあった。今回の緊急事態宣言では最大でも2、3割減にとどまっているし、昨年対比で100％を超える日もある。通販など新しい販路が売り上げを下支えしてくれている。今後、通販で初めて買っていただいたお客さまが、百貨店に実店舗があることを知って、来店していただく流れもあると思う。コロナが収束した後に、実店舗でも新しいお客さんとのコミュニケーションが始まるのではないかと期待している。
――菓子業界やシュゼットHDの展望は？世の中には良いレシピ、名物菓子などがたくさんある。それが通販で買えないとしたら、コロナが続くことで、そうした財産がなくなっていってしまう。当社が「アンリ・ショコラエイド」のようにネットで買える場を作ることで、課題を解決できるかもしれない。同じような境遇のブランドを集めることで、ネットで良い商品を見つけられるようになれば、業界も当社もお客さまにとってもいいことだ。「ネットで日本中のデパ地下を回って見ました」「ネットで地方の名物菓子を集めてみました」というような企画を仕掛けていくと新しい菓子の楽しみが開けていく。
コロナで企業の実態が問われる時代になってきた。巣ごもりで消費者が時間をかけて商品を選ぶようになると、ありきたりのものよりも、職人がこだわって作ったものが改めて評価されると思う。職人技のようなアナログな伝統が、デジタルによって脚光を浴びる時代になるのではないかと楽しみにしている。
「アンリ・ショコラエイド」
https://www.suzette-shop.jp/shop/c/cchocolat/「アンリ・シャルパンティエ ショコラプール」
https://www.suzette-shop.jp/shop/c/cch10/ 
