2023.10.30

「点と点を結ぶ」AIが描く食品・飲料業界の未来

AIとデータ分析で食品市場は大幅に拡大する

食品・飲料業界における人工知能(AI)の市場は、2026年までに299億4000万ドルという驚異的な規模に達すると予想されます。中でも、アジア太平洋地域は最も高い年平均成長率で成長を続けています。

すでに、食品・飲料業界の先駆的な企業ではAIが活用されています。AIが食品サプライチェーンのあらゆる側面に影響を与え、よりスマートで迅速な意思決定を促し、極めて重要な競争優位性を支えています。さまざまな形で存在感を示していることは明らかです。

大半の人が、「AI」という言葉を耳にしたことのあるはずです。しかし、「AI技術をどのように応用すれば、どのような利益が得られるか」といった懸念は根強く残っています。

簡単に言うと、AIには食品製造のあらゆる領域を最適化する可能性があります。スマートで業界に特化したアプリケーションを促進し、農場から食卓まで、サプライチェーン全体を改善しながら、サプライチェーンの俊敏性と売上高の成長を実現します。

AIは一般的に、従来人間の思考が必要だった複雑なタスクを実行するための機械や技術だと思われています。それだけではなく、AIは、人間の手では不可能な新しいデータ分析手法も可能にします。むしろ、それこそがAIが真価を発揮する分野なのです。AIは、莫大な数のデータ値やパラメーター、仮定のシナリオなどの要因を解析します。食品サプライチェーンのほぼすべての側面に対する、正確でタイムリーなレコメンデーションを生成することができます。そして、AI技術の応用なしには実現不可能な競争優位性をもたらすのです。

食品業界で使われているAIには、ロボット工学から機械学習まで、さまざまな技術があります。それでは、業界のどこでAIが活躍し、どのような影響を及ぼしているのかご紹介します。


精密農業


農業では、AI技術の利用によって新次元の精度が実現されています。たとえば、過去の収穫物の量と質を分析し、天気予報と組み合わせることで、どの畑にいつ水やりが必要か、あるいはいつ肥料を投入するべきかといった情報が得られます。

水産養殖分野では、エビ養殖にAI技術を使って適切な量の飼料を供給し、飼料のやりすぎや不足を防いでいる企業があります。その企業は、飼料要求率を下げながら、エビの生産サイクルを短縮することで、大規模な飼料増強なしで生産を倍増させることに成功しました。


価格戦略


価格設定においても、AI技術の応用で数多くの要因を考慮しながら、より効果的な戦略を導き出すことができます。AIアプリケーションは、季節性、競合他社の価格設定、プロモーション、顧客の需要など、あらゆる要因を迅速かつ効果的に分析できます。そのうえ、過去の価格と傾向を明確に把握して、収益を最大化させるためには、どの製品をどの価格で売るべきか提案します。すでに、ヨーロッパの大手製パン材料メーカーでは、適切なテクノロジーを導入し、幅広い製品群に対する最適な価格設定を行っています。


予測不可能性に対応


過去2年間では特に、食品サプライチェーンの予測不可能性が食品・飲料の製造に多大な影響を及ぼしてきました。こうした課題についても、AIがより良い働き方を新たに生み出すカギとなります。たとえば、適切なAIツールを用いて、船舶の到着時刻を予測できれば、メーカーはより正確に原材料の到着時期を見通せるようになります。AIによる詳細な情報が及ぼす効果は絶大です。メーカーが原材料の到着時期を正しく把握できるだけでなく、工場での荷下ろしにかかる時間なども検討できるようになるので、生産計画の精度を高めて、オペレーションを最適化し、生産性を最大限に高めることができます。

AIは、こうしたきめ細かい情報により、より正確かつ俊敏で、予測可能なサプライチェーンの土台を築き、企業があらゆる事態を想定した計画を立てられるように支援して、競争の一歩先を行くために必要となる実用的な洞察を提供します。
 

持続可能性


持続可能性の課題についても、AIが食品・飲料製造にポジティブな影響をもたらします。企業は、AIアプリケーションによって生成された洞察を活用することで、エネルギー消費や水の使用量を最小限に抑え、最も省エネな生産を保証し、製造プロセスで見込まれるすべてのタッチポイントで廃棄量を削減できるようになります。

メーカーは、仕様のマッチングと在庫の割り当てに機械学習を利用して、既存在庫の使用を最適化しながら、顧客の求める仕様を満たすことが可能かどうか調査できます。

革新的な企業は、原材料の貯蔵寿命データとともに品質情報を把握し、AIを使って動的な賞味期限設定を行っています。

AIは「消費者の手に渡ったときの品質を考慮した上で、安全に貯蔵寿命を延長することができるか?」という疑問を解決します。最終的に、製品の販売可能期間を延長して、廃棄の削減と収益の増加に導きます。さらに、AI技術が促進するスーパーマーケットでのスマートシェルフ導入によって、残りの貯蔵寿命や販売履歴に基づいた価格調整が可能になります。より一層廃棄を削減して収益を向上させることができます。


歩留まりの最大化


AIによる歩留まりの最大化もまた、劇的な変化をもたらします。IoTデバイスと機械学習を併用すれば、機器の設定を最適化して生産性を最大限に高めることが可能です。たとえば、メーカーは、原材料の品質や工程条件を考慮しながら、歩留まりを最大化する方法を調べられます。AIを利用して莫大な量のプロセスパラメーターを解析することで、全工程において最大の生産量が得られるようになります。

AIは、点と点を結ぶものです。食品・飲料業界で生み出された膨大なデータを最大限に活かし、AI技術のデータ解析によって、業界内で作用する数多くの複雑な要因をより細かく把握することができます。AI技術に投資する企業が増えれば増えるほど、ますます多くの、すぐに導入できるAIソリューションが作られるようになります。食品・飲料メーカーが蓄積した学習と経験は、類似したビジネスに適用できるAIテンプレートに反映され、最高の効率で収益を拡大するのに必要な洞察をもたらします。

AIを機能させるためには、データが必要です。AI技術は、データさえあれば傾向とパターンを見出し、学習結果と洞察を企業に提供します。そうして得られた洞察は、サプライチェーンのあらゆる段階において、オペレーションの改善、迅速化、収益拡大に役立ち、世界中の食品・飲料業界の即応力と回復力の向上につながります。



【著者】


▲インフォア アジア太平洋地域・日本担当シニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーTerry Smagh(テリー・スマグ)氏







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