2024.06.26

【ECスタートアップの課題は?】バンカブル 髙瀬社長 × NCV 松山代表「広告費・仕入費用の分割・後払いで攻めのECへ貢献」

New Commerce Ventures 代表パートナー 松山馨太氏(左)、バンカブル 代表取締役社長 髙瀬大輔氏(右)


広告費・仕入費の4分割・後払い(BNPL)サービス「YELL(エール)シリーズ」を提供するバンカブルの代表取締役社長の髙瀬大輔氏と、New Commerce Ventures(NCV)の代表パートナー松山馨太氏が対談を行った。EC業界に特化したベンチャーキャピタル(VC)であるNCVと、デットやエクイティに続く新たなファイナンス手法として「第3の選択肢」と注目されているBNPLで企業を支援するバンカブル。EC事業者の課題に向き合いサポートをするなかで見えてきたスタートアップの現状について語り合った。



──まず両社の事業について聞きたい。

松山:当社は2022年夏に創業し、コマース領域特化のVCファンドを運営している。EC関連のほか、リテールテック、物流など小売り・流通全般を対象にしている。小売・流通領域の課題を解決するソリューションを提供するスタートアップ企業への出資を通じて支援を行っている。VCでコマース領域に特化しているのが当社の特徴だ。コマース領域に関わる事業会社にもネットワークを構築し、親和性の高いスタートアップを紹介できるようなエコシステムの構築を目指している。

投資先はEC関連が最も多く全体の6割を占めている。私も共同代表の大久保洸平もヤフー出身で、しばらくEC業界に関りがあったこともあり、実務レベルでの理解ができることが背景にある。

これまでは若者の起業が目立っていたが、近年は業界経験者で、ECを支援する企業の人が起業することが多くなってきた。


▲NCVサービスイメージ

髙瀬:資金繰りが課題で中小企業の事業継続や起業をあきらめてしまうのはもったいないという考えがあり、「新たな金融のカタチを創り出す」をミッションに掲げて2021年1月に立ち上げた。Web広告費の4分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」と、仕入費の4分割・後払いサービス「STOCK YELL(ストックエール)」を含めた「YELLシリーズ」のサービスを展開している。

広告費や仕入費は、スタートアップ・ベンチャー企業が成長するために欠かせない資金であり、適切なタイミングですぐに投資することで効果を発揮する。先行投資のなかでも大きな割合を占め、キャッシュフローの負担も大きい。独自の与信審査体制を構築し、サービスを利用してもらうことで、現在までに約190社に導入し、立て替えた資金総額は約360億円に達している。

 
▲4分割・後払いサービスのイメージ

──近年のスタートアップでユニークな事例はあるか?

松山:注目しているのは、コマース(EC)とAI、サステナブル、ソーシャルコマース、フィンテックの4つの分野をそれぞれ掛け合わせた領域だ。

そのなかでも生成AIを活用して、EC業務の効率化を目指すツールがたくさん生まれている。例えば、従来は人が担っていた、データを見て分析し、必要な対応策を自動でレコメンドしてくれるAIツールも出てきている。

これまでの自動化は、事象ごとにパターンが提案されているシナリオ型だったが、生成AIの登場でその都度考えるという対応に変化している。その領域の経験者が経験値を生かして開発に携わるケースが増えている。こうした生成AIを活用することで、生産性を高めてコストを削減する大手EC事業者も出てきている。

──バンカブルのサービスは「第3の選択肢」として注目されている。

髙瀬:例えば、もっと事業を成長させたい、攻めたいというタイミングで金融機関やVCから資金調達するという手段があるなか、最短3営業日というスピード感を持って対応できる「YELL(エール)シリーズ」は支持されている。

弊社のサービスは、融資や出資により調達をした手元資金を効率的に使っていただくもの。つまり「攻め」のタイミングで使うことを主眼においている。広告出稿する場合は、代理店経由もしくは法人カードを使うことが想定される。いずれの場合も一括で支払うことが必要で、思い切った施策を実行しづらい。特にサブスクや低単価のECでは、売上が立つまでの期間が長く、翌月に広告費用や仕入れ費用を一括で支払うことは大きな負担になる。

松山:手元資金が不足していることを理由に、成長の可能性があるのにできていないECもある。バンカブルのサービスはこうした課題を解決できる有力なサービスとして当社も期待している。

──両社の今後の展望について2人はどうみているか?

松山:食料品や飲料を中心に、ECそのものが生活のインフラとして定着している。当社はイベントを随時開催しており、新しいソリューションとの出会いの場を提供して、サービスレベルの維持と同時に、豊かな暮らしの実現に貢献したい。

髙瀬:生活者がオンラインでサービスを受ける機会はますます増えていく。既存の「YELLシリーズ」に加え、新たなサービスを拡充することで企業が抱える課題を少しでも軽減できるようにしたい。