人気料理ユーチューブチャンネル「あおいの給食室」を運営するSpoon(スプーン)と、給食受託大手のハーベストの間で、一方的な契約解除などを争点とした、損害賠償訴訟が行われている。両社が共同展開していたミールキットのEC事業を巡り、原告であるスプーンは、ハーベスト側による一方的な契約解除と、レシピや顧客を「奪われた」と訴えている。
ハーベスト側は、契約解除の正当性とレシピの盗用の不成立を主張し、双方の言い分は真っ向から対立。スプーン側は、2億円を超える損害賠償を請求、2027年明けにも判決が下るものとみられる。企業とインフルエンサーが業務提携を行う場合、インフルエンサー側が不利な立場になってしまうケースも少なくない。企業にとっては、契約段階で、訴訟のリスクを避ける配慮が必要だ。
7年契約の途中破棄を主張
「あおいの給食室」は、チャンネル登録者数40万人を超える人気ユーチューバーだ。保育園で10年以上の勤務経験を持つ、管理栄養士の「あおい」氏が、保育園給食のノウハウを取り入れた栄養バランスの取れた料理動画や献立情報を発信してきた。
「子どもがパクパク食べる!魔法のおうちごはん」などのレシピ本も出版している。
ハーベストは、全国で学校給食や保育園給食などの事業を手掛ける大手食品企業だ。ヨシケイ開発のフランチャイズ加盟店で宅配弁当の製造・販売も手掛けている。
訴状などによると、両者は2021年10月、保育園や個人家庭向けのミールキット事業に関する業務委託契約を、当初1年の期間で交わし、その後7年に延長した。スプーン側が献立作成やPR活動を担い、ハーベスト側が製造や配送の実務を担当する形でスタート。事業は月間の売上高が2000万円を超える規模に成長していた。
2023年9月、ハーベスト側が突如として契約解消を打診。同年10月末をもって一方的に契約が解除されたという。

裁判でスプーン側は、契約解除は7年契約に反する不当な債務不履行であると主張。契約が継続していれば得られるはずだった約1億6200万円の利益に加え、無償で行ってきたPR動画の制作費用や精神的損害など、総額2億円を超える被害が生じたとして損害賠償を求めている。
さらに、スプーン側は、契約解除の直前にハーベスト側が自社のレシピデータベースへ数百回に及ぶ異常なペースでアクセスし、データを一括取得したと指摘。その後、ハーベストが立ち上げた独自サービス「はぴみる」において、スプーン側が考案したレシピを盗用していると主張した。
年齢別の分量計算や献立、SNS上の文章に至るまで、スプーン側のノウハウや表現がそのまま流用されたと訴えている。
ミールキットの製造過程において、腐敗食材の混入や期限切れ問題といった品質不備が原因でクレームが殺到し、「あおいの給食室」のブランド価値が著しく損なわれた点も訴えている。
「盗用・侵害は存在しない」
これに対し、被告であるハーベスト側は準備書面において、スプーン側の主張を全面的に否定している。
契約解除について、ハーベスト側は、契約書に定められた「信用状態が著しく悪化した場合は事前に催告なく解約できる」という特約を根拠とし、解約の正当性を主張している。スプーン側が事前に事業の休止や撤退を示唆する連絡をしたり、連絡体制を一方的に変更したりしたことなどで信頼関係が破綻したとし、解除は契約に基づいた正当な権利行使であると説明した。
レシピやウェブサイトの機能に関する盗用疑惑についても、全面的に争う姿勢を見せている。料理の手順そのものは、業界では一般的に使われる「アイデア」に過ぎず、著作権法で守られる独自の創造的表現には当たらないと反論している。「はぴみる」が提供しているレシピは、自社の栄養士が過去の蓄積や知見に基づき独自に調整・作成したものであり、スプーン側の秘密や権利を害した事実はないとしている。
「顧客を奪われた」とする主張に対しては、事業のインフラや顧客網はもともと自社のものであるため、「顧客の奪取」という概念自体が成立しないと反論している。
クレーム対応についても電話などで真摯かつ適正に対応済みであり、ブランドを毀損(きそん)するような重大な不備は発生していないとして、損害賠償責任の発生そのものを否定している。