【第8回】「自社ECを『ブランドEC旗艦店』に再定義する」
リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた久(きゅう)のブランドEC成長支援室 立川哲夫室長が、今後、目指すべきブランドを起点としたEC事業モデルについて提案する。第8回のテーマは、今後「ブランドEC」中心に成長を続けるための『自社ECを「ブランドEC旗艦店」として定義して育てていく』ための背景と考え方について解説していきます。
AI時代がもたらした、EC成長モデル転換のタイミング
国内の物販EC市場は約16兆円規模に達し、経済産業省の小売販売統計で公表されているコンビニの約13兆円やスーパーマーケットの約16兆円と肩を並べる規模にまで成長しました。EC販売は、身近で便利な販売チャネルという側面から生活に溶け込み、今や「なくては不便な社会インフラ」の一つになったと言えます。
しかし、ここ数年は既存の小売市場と同様に市場成長率が鈍化する一方で、販売チャネル間の競争激化や各種コストの上昇により、「売上はある程度伸びても利益が増えない」という課題が顕在化しています。さらに「AIの民主化」が急速に進んだことで、「AIに選ばれるための構造転換」やAIツール活用による業務効率化だけでは、他社との圧倒的な差別化が難しい時代に突入しました。
このようなAIの民主化も含めた大きな転換期において、企業は「商品の売り方」や「顧客との接点」をどのように見直すべきなのか。その大きな示唆となるのが、日本を代表する小売業のトップランナーが打ち出した新たな出店戦略です。
ユニクロの柳井氏が示唆、「売るだけの店」からの脱却
ユニクロを展開するファーストリテイリングが、国内の出店戦略を大きく見直す方針を打ち出しました。以下は、柳井正会長兼社長のインタビューを報じた日本経済新聞の記事の一部です。
「画一的な店舗を大量出店するこれまでの戦略を見直し、出店先を都市部の人口密集地に絞った旗艦店へのシフトを鮮明にする。柳井氏は今後の出店について
『全て旗艦店戦略に変える』と表明した」
「店舗は商品を購入する場所からブランドイメージを発信したり、商品のイメージを体験したりする場所に変化しつつある。
柳井氏は『商品を売るだけの通常店は増やしても意味がない』と説明した」(「日本経済新聞」2026年8月30日付朝刊、1面より一部引用)
このインタビューから読み取れるのは、すでに米国・欧州で成長を牽引している「旗艦店フォーマット」含めて、顧客とブランドの接点であるリアル店舗が、単なる
「商品を購入する場所(売るだけの場所)」から、「ブランドイメージを発信・体験する場所」へと役割を変えつつあるというメッセージです。これは、リアル店舗に限った話ではありません。デジタル接点でモノを販売しているEC店舗においても、全く同じパラダイムシフトが起きていくと予想しています。
自社公式ECをブランドEC旗艦店(ECフラッグシップ店)へ再定義する
これまでECは、「商品を消費者へ直接届ける」という利便性を武器に成長してきました。しかし、前述の通り事業環境が大きく変化する中で、2026年から2027年は、その先の2030年を見据えながら「EC事業の次の姿」を描き直す重要なタイミングです。
株式会社久では、これからのECを単なる「売上を伸ばす場(売る場)」としてではなく、「ブランドEC(自社公式EC)をブランドイメージの発信拠点であり、顧客接点およびファン育成の中心として再配置すること」を提言してきました。
これをユニクロの柳井氏の発言に照らして考えると、
自社公式ECを「ブランドEC旗艦店(ECフラッグシップ店)」として再定義し、消費者からもAIからも選ばれ続けるためのさまざまな変革に取り組む必要があると考えています。
ECの成長をユニクロの国内成長戦略になぞらえるならば、この15〜20年は、同じ商品画像や商品説明文をコピー・転用しながら効率的に、自社公式EC、楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング、その他モールやSNS系チャネルへ多店舗展開することで、「チャネル拡大(出店場所の拡大)」による売上成長を追求してきた時代だったと言えます。
今後は、自社公式ECを「ブランドEC旗艦店」として再定義し、ECモール活用とは異なる成長基盤を構築していくことが必要なタイミングになったと言えます。
【ブランドEC旗艦店を中心にしたEC事業の再定義イメージ】