AIが消費者に代わって商品を検索・比較し、購入手続きまで代行する「エージェンティックコマース」の国内における本格化が、秒読み段階に入っている。米国では、各AIチャットツールとECサイトの連携開発・実証実験が進んでいる。2027年には、国内でも実証実験が行われ、一般的に利用されるようになっていくと言われている。2028年には、事前の設定条件に基づいてAIが自動で決済まで完結する「委任型購買」へ移行していくという予測もある。すでに消費者が自らECサイトで探す従来のスタイルから、AIが商品を検索・選択・比較しチャットで提示する構造へとシフトしている。EC事業者には、AIに選ばれるための商品データの構造化など、急ピッチな対応が求められている。
”認識すらされない”リスク
2026年現在、EC事業者と消費者の間には、AIを交えた新たな課題が浮き彫りになっている。消費者側では、AIとの対話で伝えた予算や利用目的などの背景情報がサイト側に引き継がれず、検索を一からやり直す「文脈の分断」が障害となっている。
EC事業者側で深刻なのが”AI Unready(AI非対応)”による失注リスクだ。CX向上生成AIソリューションを提供するZETA(ゼータ)によると、ECサイトで商品情報がAIに読み取れる形に構造化されていない場合、AIの検索・選定候補から完全に除外され、存在しないものとして扱われていく懸念があるという。
ユーザーがAIのチャット画面上で購買を完結させるようになる”ゼロクリック構造”になっていくことを考えると、従来の自社サイトへの流入を前提とした集客モデルは崩壊しつつあると考えられる。
AIによる検索が主流になることにより、自社サイトへの流入が激減する。これはすでに起きている現象だ。
自動決済からAI同士の交渉
今後、エージェンティックコマースの進化は明確な段階をたどるようだ。
デジタルガレージグループのDGビジネステクノロジーは、2026年現在、AIがウェブ上を横断検索して情報を提案する”アシスト購買(レベル1)”に当たる状況だという。
現在、実装や検証が進んでいるのが、AIが商品を検索・選定し、ECサイトのカゴに入れて、住所・決済入力を代行し、購入の直前で人間が承認する”コンシェルジュ購買(レベル2)”だ。今後、このレベル2が、エージェンティックコマースの主流になると考えられている。
2028年から徐々に実用化していくと考えられているのが”委任型購買(レベル3)”だ。人間が不在でも、事前に設定した条件に基づき、AIが自律的に決済まで完結させることができるようになる。
レベル3では例えば、「○○の商品が5000円以下に値下げされたら購入して」といった命令が自動で実行される。
さらに将来的には、明示的な指示すら不要になる。AIが、ユーザーのライフスタイルやニーズを先回りして購入を完全自動化するようになる。消費者側のAIと事業者側のAIが条件を直接交渉する”A2A(Agent to gent)”の世界へと発展する見込みだ。
責任の不透明さも浮き彫り
技術の進展に伴い、新たな社会課題も浮き彫りになりつつある。AIが自律的に購入する際、そのAIが本当に本人から正当に権限を与えられているかを、暗号化技術で検証する仕組みが必要になると言われている。
AIの誤判断や”ハルシネーション(嘘の回答)”によって意図しない購入が発生した場合、その責任をユーザー、AI事業者、EC事業者の誰が負うのかというルール整備も途上だ。
ACPやUCPといったAIチャットとECサイトの接続規格も乱立しており、規格の頻繁な更新による運用負荷の増大も懸念されている。
さらに、高度化する不正アクセス対策も大きな壁だ。不正検知サービスの米Forter(フォーター)によると、AIを使う正当なユーザーの裏に、悪意のある第三者もAIを使ってアクセスしてくる。従来の端末情報や振る舞い検知による判定が通用しなくなっているという。
AIからのアクセスを一律にブロックすれば、正当な購買機会を自ら逃すことになる。ユーザーごとにAIを使った行動パターンなどの情報を蓄積・活用していく必要があるそうだ。
エージェンティックコマースの課題は山積しているとはいえ、近い将来必ず到来する、大きなゲームチェンジだ。Forterのように、自社ECサイトとGeminiなどの各AIプラットフォームを媒介する接続ハブを提供している事業者もすでにある。効率的にエージェンティックコマースに適合していく手段はある。