EC(電子商取引)業界唯一の専門紙「日本ネット経済新聞」とECに特化した日本初のシンクタンク「デジタルコマース総合研究所」が共同制作したEC市場にフォーカスしたデータブック「EC白書2026」に寄せられた一般社団法人ジャパンEコマースコンサルティング協会(JECCICA) 川連一豊代表理事のレビューをご紹介します。
私、川連一豊は、昨年の「EC白書2025」を確認して、EC白書は「ECビジネスの羅針盤」と、レビューさせて頂きました。2026年版を確認して思ったのはこれは「海図」だと思いました。羅針盤は進むべき方角を示しますが、海図は水深と暗礁の位置まで教えてくれます。今回のEC白書2026は明らかに海図へと進化しています。
「成長した」と読ませない誠実さ
2025年の物販系BtoC-EC市場規模は16兆275億円(推定)、EC化率9.91%。前年比5.31%増と聞けばグッドニュースと言えます。しかし本書では、EC化率の伸び率で見れば実質1.33%にすぎず、2024年の4.26%から鈍化していると釘を刺しています。さらに前年の3.70%成長も、消費者物価指数2.7%を差し引けば実質1.0%だと指摘しています。数字を並べるだけの資料は世に多いですが、「その数字をどう読むべきか」まで踏み込んだ資料は稀だと言えます。編纂に当たられたデジタルコマース総合研究所の本谷氏の姿勢に敬意を表したいと思います。
AI特集がバズワード解説で終わっていない
巻頭特集「AIで変わるEC市場」は、2017年の経済産業省調査まで遡るところから始まります。この歴史観はさすがだと思います。その上でStripeによるエージェンティックコマースの5段階、Google陣営のUCPとOpenAI・Stripe陣営のACPという標準化競争、そしてSEOとAIOの対比表へとなっています。「AIOはSEOに代わるものではなく、その上に積み上がるもの」は、まさにその通りでECを運営している企業にとって分かりやすい内容と言えます。
同時に、EC事業者の「AIの導入・活用」意向が27%→43%へ跳ね上がる一方、効果を「十分に得られている」と答えたのは13%にとどまっています。この落差こそが現場の実感が出ています。消費者側でも「AIに任せたい」34%に対し「自分で納得して買いたい」が71%。日本国内ではAIはまず買う人ではなく相談相手として来る——この辺り、私も強く意識したいと考えています。
越境ECを「熱」ではなく「構造」で語っている
JACCAで越境ECに携わる立場として、第5章の記述の抑制の効き方が印象的でした。米中消費者から日本への越境EC市場は合計4兆2,350億円、JETRO調査による日本企業の海外向けEC実施率は53.6%→66.4%→68.4%と着実に上昇しています。しかし本書は同じページで、中国の国内景気低迷が今後の購買に影響しうること、そして68.4%という数値自体が実態より高く出ている可能性まで併記しています。追い風だけを書かない。この誠実さが、事業判断に効いてくると思います。
最も注意すべき数字 ——「1注文1.7個」
個人的に最も刺さったのはこの数字です。1注文あたりの購入商品点数は世界平均4.44個に対し、日本は約1.7個。そしてかご落ち率はおおむね70%。この2つを並べた時、日本のECには客単価とクロスセルに課題が有り、大きなチャンスと見るべきだなと思います。さらに本書では、かご落ちを「離脱」ではなく「消費者の購買意思を持続させる保存の場」と捉え直すべきだと提案しています。
セキュリティを一章に組み込んだ英断
クレジットカード不正利用被害額は510.5億円(うち番号盗用が93.1%)、ランサムウェア被害報告は243件。アサヒグループやアスクル、ニチレイなどの事例を、EC市場のデータブックが正面から扱った意味は大きいです。セキュリティは「情報システムの話」ではなく、すでに「経営の話」になっています。
都道府県別EC化率(東京12.66%、秋田5.64%)、60歳以上が総人口の35%を占めながら60代以降のEC化率は3.53%——こうした切り口は、地方の事業者や自治体、そしてECを運営する企業やECショップの店長にとって、そのまま議論のテーマになり得ます。フェムケア、スリープテック、猛暑対策といった課題解決型カテゴリーの提示も、次の一手を探す事業者への具体的な提案となっています。
私が個人的に、「毎年版としての価値」と期待していたこの2026年版は、EC市場が成熟期に入り、AIが購買の前提を書き換えようとしている転換点を、感情ではなく間違いなく定量データに基づいた一冊と言えます。ぜひ、関係者の皆さんには、この「海図」を手元に置いていただき、今後の方向性を決めていっていただきたいと思っています。
<「EC白書2026」の詳細&ご購入はこちら>https://www.netkeizailab.com/apps/note/<その他の「スペシャリストレビュー」はこちら>https://netkeizai.com/articles/detail/19514【川連一豊氏のプロフィール】1999年よりEコマースを始め倍々で業績を伸ばし、楽天市場2003年ショップ・オブ・ザ・イヤー受賞。2004年8月、ECシステム支援のSAVAWAYWAYを設立。2013年には、ECシステム流通総額を月間150億円、年間1700億円以上に育てる。3500社以上のネット通販企業との取引実績を持ち、50人以上のECコンサルタントを輩出している。オムニチャネル、クロスボーダーEC、システム開発、Eコマースに精通した専門家。現在は、デジタルソリューション企業であるフォースターの代表取締役、一般社団法人ジャパンEコマースコンサルティング協会(JECCICA)代表理事、一般社団法人日本越境EC協会(JACCA)の専務理事を務める。
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