EC(電子商取引)業界唯一の専門紙「日本ネット経済新聞」とECに特化した日本初のシンクタンク「デジタルコマース総合研究所」が共同制作したEC市場にフォーカスしたデータブック「EC白書2026」に寄せられたスタイルビズ 代表取締役 村山らむね氏のレビューをご紹介します。
ECについて語るとき、私たちはつい市場規模やEC化率、成長率といった数字に目を奪われます。しかし、ECを実際に動かしているのは数字ではありません。その向こう側にいる、一人ひとりの消費者です。
『EC白書2026』は、充実した市場データによって日本のECの現在地を把握できるだけでなく、消費者の暮らしや購買行動がどのように変化しているのかを考えるための材料を与えてくれる一冊です。豊富な消費者アンケートはもちろん、長年経産省の調査を担当してきた著者の本谷知彦氏の卓越したデータセンスにより、ECに携わる人がどんな数字が欲しいかの、アンテナの立て方が秀逸です。
前年版から約30ページ増。量だけでなく解像度も向上
2026年版は、前年版より約30ページ増加したそうです。単純に情報量が増えただけではありません。ECモールごとの流通総額が商品ジャンル別に細分化されるなど、市場をより立体的に捉えられる構成へと進化しています。
「EC市場が伸びている」「特定のモールが成長している」という大きな数字だけでは、実務に直結する判断はできません。どのモールで、どの商品ジャンルが、どのように動いているのか。そこまで細かく見ることによって、初めて自社の立ち位置や競争環境が見えてきます。
市場データは答えそのものではなく、問いを立てるための出発点です。
なぜ、このジャンルは伸びているのか。なぜ、同じカテゴリーでもモールによって動きが違うのか。その背景には、どのような消費者のニーズや生活の変化があるのか。
細分化されたデータを行き来しながら、こうした問いを立てられることが、本書の大きな価値だと感じました。
「AI」と「物価の影響」を巻頭特集で捉える
今回新設された巻頭特集では、「AI」と「物価の影響」という、現在のECを考えるうえで避けて通れない二つのテーマが取り上げられています。
AIは、商品説明の作成、広告運用、接客、検索、需要予測など、ECのさまざまな業務を変え始めています。一方、物価上昇は、消費者の買い方そのものに影響を及ぼしています。
「何をどうすればいいのか?」そのヒントが簡潔にまとめられています。特にAIについてのまとめは必見。
リテールメディアやOMOも、主役は消費者
2026年版では、リテールメディアやOMOといった注目トピックも拡充されています。
リテールメディアは、企業にとっては新しい広告・収益機会です。しかし、消費者にとって意味があるのは、自分に必要な情報や商品と、適切なタイミングで出会えることです。企業側の都合で広告が増えれば、かえって購買体験を損なう可能性もあります。
OMOについても同様です。オンラインと店舗のデータやシステムをつなぐこと自体が目的ではありません。消費者がチャネルの違いを意識せず、探しやすく、買いやすく、受け取りやすく、相談しやすい状態をつくることが本来の目的です。
新しい技術やビジネスモデルを、企業側の効率や収益だけで評価するのではなく、「消費者にとって何がよくなるのか」という視点で捉え直す。本書の豊富なデータは、そのための土台にもなります。あのデータあるかな?というようなデータがほぼ網羅されています。
経営者とEC担当者が、同じ地図を見るために
ECの現場では、経営者と担当者の間で認識にずれが生じることがあります。
経営者は市場全体や投資対効果を見ます。一方、担当者は日々の売上、広告、システム、物流、顧客対応と向き合っています。本書のように市場全体から商品ジャンル別の動向、注目テーマまでを俯瞰できる資料があれば、両者が同じデータを見ながら議論できます。
自社は市場の中でどこにいるのか。どの顧客に価値を届けるのか。AI、リテールメディア、OMOを何のために活用するのか。これから何に投資すべきなのか。
そうした対話を始めるための共通言語としても、『EC白書2026』は有効です。
データを眺めて終わるのではなく、その数字の向こう側にいる消費者の暮らしや感情を想像する。そのうえで、自社が提供できる価値を考える。
本書は、EC市場を理解するための白書であると同時に、消費者をもう一度見つめ直すための一冊です。ECに携わる経営者、事業責任者、マーケター、そして現場の担当者に、ぜひ手に取っていただきたいと思います。また、できれば経年で読む必要もあり、2025年度の入手もぜひ!
<「EC白書2026」の詳細&ご購入はこちら>https://www.netkeizailab.com/apps/note/<その他の「スペシャリストレビュー」はこちら>https://netkeizai.com/articles/detail/19514【村山らむね氏のプロフィール】EC・顧客視点コンサルタント。有限会社スタイルビズ代表取締役。
1989年に慶應義塾大学法学部を卒業後、東芝に入社。2000年よりネットベンチャーで新規事業部長として企業のネットコミュニケーションを多数企画。並行してEC関連事業に携わり、2004年に有限会社スタイルビズを設立。EC事業の立ち上げ、デジタルマーケティング、顧客体験設計、オムニチャネル戦略などを中心に、企業へのコンサルティングや講演、執筆活動を行う。日経MJでは、消費者視点からECや消費トレンドをテーマとしたコラムを17年間にわたり連載した。
ケンコーコム、千趣会、アスクルの社外取締役を経て、現在は、西日本を中心としたスーパー大手のイズミの社外取締役を務める。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授、日本オムニチャネル協会フェロー、JECCICA客員講師、日本スタートアップ支援協会顧問などを務める。企業側の論理だけでなく、生活者の不便や感情からECを捉える「顧客視点」を一貫して提唱している。